たったひとりの反乱

ここ数年の社会で話題となったニュースのひとつに「食品偽装問題」というのがあると思うが、この問題と関係が深いのが告発者の存在ではなかろうか。
NHKで放送していた「たったひとりの反乱」という番組が、内部告発した当人ならではのインタビューを放送していて、思わず見入ってしまった。
牛肉コロッケなどを偽造していたミートホープの偽装事件で、内部告発を行った男性が出演していたのだが、この人のインタビューがいろいろと考えさせられてしまう内容で、たとえばミートホープの社員に対する思いやりだとか、殺到するマスコミへの苦悩だとか、事件に巻き込まれ家族と距離ができてしまうこととか、番組中のエピソード一つ一つが辛いものだった。
結果的には、会社はつぶれ、同僚は失業してしまう一方、自らは英雄視されてしまうという苦悩が彼を襲うわけだが、インタビューを通じて内部告発者の苦悩が十分に伝わってきた。普通のおじさんがとんでもない嵐に巻き込まれてしまう感じが、なんとも大変そうで同情をおぼえると同時に、やはりここでもマスコミは迷惑をかけている張本人の一人でありながら、無反省であることが恐ろしい。
しかし、ここまでは普通の番組。ここからが、この番組のクライマックスだったと思う。思わずのけぞったのは、番組の最後に「当時に戻ったら、もう一度告発しますか」という質問に対して、「告発しません」という答えが出たことだ。
TVの文法としては、ここで「告発したいです」と言わせるのが普通なのだろうが、告発した当人にとってはそんなことは関係ない。TVでこんな回答をすることは勇気がいると思うが、それでも、あくまでもきっぱりと否定した当事者の答え方に、当時の苦しい経験が生々しく伝わってきた。このインタビューのやりとりを見せただけでも、この番組の価値があったと思う。


しかし、かたや社会問題としては、これは大きな問題であることは間違いない。
つらい思いをして告発して、何もいいことがないのでは、あまりにも報われなさすぎるし、なにより不正を告発する人は出てこないであろう。たとえば、雪印を告発した西宮冷蔵の水谷社長みたいな強い心と正義感の持ち主はともかく、世の中の人はそんな人間ばかりではない。行政は、こういった不正を告発した人に対する報奨、インセンティブのような制度を早急に整備しなければならないのではないかと思う。