山で最期を迎えたい

時が経てば経つほど、映像は多くの価値を持つようになる。きょうの午後に放送されていたKRY制作の「山で最期を迎えたい」というタイトルのドキュメンタリーは、心に多くのことを問う、素晴らしい内容だった。
映画 ふたりの桃源郷 | KRY山口放送
自らが開拓した山で暮らした記憶が、自らの心の中に生き続けていた夫と、その夫についていく妻。しかし、電気も水道もない山の生活は、高齢者にとっては、多くの不便が敵のようにのしかかってくる過酷な暮らしである。そんな中でも「山で最期を迎えたい」という気持ちは、娘たちにとっては心配以外の何物でもない。そして、やがて親は病気や痴呆という局面を迎えることになる―。
私がこのドキュメンタリーの本当に考えさせられた部分は、その親と折り合いをつけ、どう看取るかということを考えた娘たちの視点だ。人はやがて老い、そして死を迎える。親を見送るために何をすべきか、何が親孝行なのか。傍から見れば迷惑千万な親の気持ちに振り回されながら、それでも親を看取らなければならない。私にとってもいつか来るべきことであり、いつかくる局面を考えさせられるような内容だ。人生の中で最も充実していたであろう山から離れない、執念すら感じさせる老人の姿に、人の思いとはなんと強いものなのかと感じた。
そして、このドキュメンタリーで最も素晴らしいことは、17年にわたって夫婦を取材し続けてきたことだと思う。長い期間にわたって取材した映像は、何よりも雄弁に事実を物語る。17年間にわたって取材したという記録は、それだけで価値のあるものだし、見ていて面白くならないわけがない。山で暮らす夫婦が、はじめは元気だったのに、徐々に年老いていく。残酷なまでに冷静にカメラが映す夫婦が老いていく姿は、歳月の長さを感じさせるには十分だ。贅沢であると同時に、ローカル局でしか作れないものの一つだと思う。
ドキュメンタリーばやりといわれる昨今だが、こういった本物のドキュメンタリーを、たとえばゴールデンやプライム枠でレギュラーとして放送することができるくらい、根性があるとは思えない。これもまた、テレビの素晴らしい仕事であったと思う。