さよなら、サイレントネイビー

ノンフィクションというのは、リアリティがあるからこそ、時に圧倒的に胸に突き刺さる。


伊東乾『さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生』(集英社
さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生


東大理学部で、著者の実験パートナーだった元オウム真理教信者の豊田亨被告。彼がなぜオウムの出家信者となり、地下鉄サリン事件の実行犯となってしまったのか。科学的な理論や証明を用いて著者はその答えを必死で探る。そして、過ちを繰り返さないために、事件の当事者には沈黙させるのではなく、その過ちについて話をさせるべきだと訴える。この本は、簡単に言うとこんな内容だ。
世間の人は、オウム真理教の信者に対して、「特殊な人間、例えば最高学府のエリートが、勉強ばっかりしてて人並みのことをやらなかったから、あんな変な宗教に引っかかったんだ」というような見方をしているんじゃないかと思う。しかし、オウム真理教の信者も、実はたまたま引っかかっただけで、多くの人は普通の人だったんじゃないか? 私のそんな感じ方を裏付けてくれるのがこの本だった。
ローカル局で伝える側として仕事をしている私も、マスメディアの一員であることに変わりはない。真実に近いと思って、世間の人たちが納得できるという形で伝えることも必要なのだろうが、それでいいのかと考えさせられる内容だった。
著者のような友人を持っていた豊田亨という人は、他の信者よりもラッキーだったんじゃないかと思う。わずかであっても、マスコミが見た姿ではなく、身近な人間から見た姿を、世の中に伝えてくれる友人がいたのだから。