MSN-Mainichiのコラムです

このコラム、西正さんが不定期に更新しているのだけど、今回は興味深い。当事者としては、全面的にうなずけるものではないが、大変参考になる考え方である。
例えば、放送外収入の必要性はもう何年も前から考えていたことだし、局間の収入差は、所属する系列間での差だったりする。ただ、文化的なイベント公演などは、プロモーターの立場から言うと「正直、儲からないから地方で公演しない」のだと思うのだが、少なくとも、それくらいの心意気を持つのもまた、局員としての心意気だろう。
その内、自分でも読み返そうかと思うので、ほとんどそのまま掲載。

全地上波局がデジタル放送を開始した今、アナログ停波に向けて民放ローカル局には体力の増強が求められている。東京と地方で文化格差が起こらぬよう、民放ローカル局にはそれを埋めることが期待され、それに取り組むことで、課題となる体力の増強にも大きく寄与することになるだろう。【西正】

■文化格差を埋めていく役割

昨年の12月に全ての地上波局がデジタル放送を開始した。アナログとデジタルの両波を送るサイマル放送は、放送局にとって大きな負担となることから、デジタル放送を始めた以上は予定通り2011年7月24日にアナログ停波を実現しなければならない。
アナログ停波を行うためにはデジタル波の届かない条件不利地域を無くなさなければならない。IP方式や衛星による再送信も検討されているが、それらは補完的な手段であると位置付けられていることから、あくまでも基本は中継局を設置して電波で送信すべきであると考えられている。

そのためには、民放ローカル局も相応の負担をしなければならないが、単純に赤字経営に陥ることを覚悟してリストラを行うということでは、本来的な放送事業の公共性が損なわれることになりかねない。それならば、むしろローカル局もこれを機に、より一層の体力を増強させることに努めるべきである。

そのための最善策は放送外収入の拡大であるが、ローカル局のミッションとして東京との文化格差を埋めていく努力をすることによって、実現しやすくなる。とかく情報格差について指摘されることが多いが、放送のネットワークの中で多くの番組が同じタイミングでローカル局でも流されていることからすると、今は情報格差自体はそれほど大きな問題であるとは考えにくい。

■事業収入の強化が急務

むしろ東京ではライブで見られるものが、地方ではなかなか見られないものが多くなっている。クラッシックのコンサート然り、舞台や演劇物も然りである。それをローカル局が主催して行うことにより、東京との文化格差を縮めるのに貢献できるだけでなく、自らの事業収入を大きくすることが出来るのである。

ローカル局が自らの番組制作を増やすことにより、地方からの情報発信を増やすことは重要だが、今の経営環境を考えれば、事業収入を強化することに優先的に取り組むべきであろう。

同じ県内に複数のローカル局がありながら、それぞれの収益力は大きく異なっている。民放の収入源として広告料が大きいことは間違いないが、それだけの理由であるのならば、東京キー局が作った番組を流しているケースが多い以上、東京キー局の視聴率、広告収入の順位がそのままローカル局にも反映されそうなものだが、決してそうはなっていない。

同じ県内にあるローカル局同士で大きな収益格差がつく理由は、広告収入だけによるわけでなく、むしろ事業収入の多寡によることが多い。事業局の強いローカル局が強いと言われるゆえんである。情報発信も重要だが、文化格差を埋めることも、ローカル局の重要な役割である。

放送局に限らず、どのような事業であっても、多角化を図っていく上では、自らのコアビジネスを広げていく方向に向かうべきであることに変わりはない。いきなりノウハウも何もない事業に進出しても、それが成功する確率は非常に低い。

コアビジネスに一生懸命取り組むことにより、サービスを普遍化していけば、事業領域は確実に広がっていく。それに対しては積極的に着手していくべきである。

多角化は意欲が必要

東京キー局と全国各地のローカル局とでは事業規模が大きく異なる。しかしながら東京キー局の規模でなければ多角化が難しいということにはならない。
(中略)
意欲のあるところと、無いところの差が目立ち始めるのは、競争社会においては当然のことである。これまでは、ローカル局は何もしない方が利益を稼ぎやすいという考え方もあった。東京キー局から送られてくる番組を中心に編成し、自前の番組はローカルニュースを中心として、制度上義務づけられている必要最小限の番組しか作らなくても経営が成り立ってきたということである。すなわち、何もしない方がリスクは少なくて済んだし、自前の番組などは作れば作るほど損をするという考え方も多く見られた。
アナログ時代にはそうした考え方でも存続することが出来たが、デジタル放送が開始することになり、さらにはインターネットとの連携も視野に入ってきた今、何もしない方がリスクは無いといった経営をしていたのでは、ローカル局の存在意義を議論する際に、単に既得権を擁護しているわけではないと主張することも難しくなる。
(中略)
東京と地方とで文化格差が広がっていることを是正するために、放送局が主催者として地方に文化事業を誘致する努力をすることは、放送の公共性とのバランスを確保するためにも必要不可欠なことである。
川上から川下への事業拡大が多角化のセオリーであるにしても、放送局が手がける事業がすべて、最後は放送番組として流されるべきであると考える必要はないと思われる。(2007年2月8日)